小さなフィアットパンダに和服を着て乗り、颯爽と走ることの快感を1年ほど味わっていた。
世間では高齢者の事故が日常的に報道され、親しい人の中にも返上の話題もちらほら聞こえていた。
身内からも「ボチボチいいじゃないかね~」という声がかすかに聞こえてたような気もしていたが。
自分では活動的で、運動神経も良いからあと10年は普通に運転できると思えていた。
以前は目的地までの往復だけでの乗車から、寄り道をして用足しをしたり、活動範囲が広くなっていた。
カアナビを使えば、行った事のない場所へも一人で行けるようになった。
車は好きで乗るという事ではなく、必要に迫られて40歳から乗るようになっていた。
まだ高校生の時に取った免許は大型自動2輪も乗れる免許であつた。
運転が好きではないが、支店に行く時や、緊急の時は、運転免許が有ってよかったと思えていた。
思い起こすと人手不足の時は配達もしていた、暗くて道が解らず泣きそうになりながら、
私が解らずに配達できなかったという事は絶対言えないので、必死で探して納品もしていた。
紙の地図帳で、携帯電話もなく、住居表示もない時代だったので、配送の人の困難は理解できる。
役目柄今は年数回しか支店には行かない、冠婚葬祭もコロナと風習の変化で無くなった。
年々車を使う場面が減ってきているし、荏原は交通の便が良く電車も4路線あり、国道の中原街道
にわ100歩もあるけば、タクシ-は拾える。
そして何より80歳という年齢は若気と云えども80歳には間違いない。
遅かれ早かれどこかて諦める時が来るとは思っていたが,事故を起こしてからでは悲劇になる。
「これからようやく人生を楽しもうとしている人なのだから、返上したほうが良いですよ」と云う
強烈な、熱い心のアドバイスを頂き急遽決断することにした。
周囲に返上をするというと、誰も反対する人はいなかった。
私は運動神経は良い方だからというと即「この自信が危ない、返上したほうが良い」
一人は1月~2月と頻繁に着物を着て、運転して出かける私をみて、その頻度の多さに
「ご注意をしようと思っていたところだったので、よかったです。安心しました」
とも言われた。自分では解らなくても周囲では感じる物が有るのだと知らされた。
車なら暑さ寒さ雨風も何のその、時間短縮にもなり、やはり便利な乗り物です。
時間に関してはあれもこれもともう急いで行動する時間的な制約も無くなっている。
又タクシーの方が、経済性も安全性も高いので、便利な迎車サービスもあるので
馴れればすぐに不便は感じなくなるとも思われる。
人の言葉では動かない私が初めて親身なアドバイスを頂き、その方のお人柄で
自分の主義主張を変られ、爽やかな気持ちになり、顔つきが優しくなりました。
そのやさしい顔の写真で運転経歴証明書の交付を申請した。
2週間もすれば電話連絡がくるそうで、受け取り周囲に見せびらかすのが楽しみだ。